
ひと目でわかるアメノウズメ
| よみ | あめのうずめのみこと |
|---|---|
| 別名 | 天鈿女命(『日本書紀』『古語拾遺』)・天宇受売神(『古事記』天孫降臨の段) |
| 神格 | 芸能・神楽の祖神、鎮魂の神、猿女君の祖 |
| おもなご利益 | 芸能・技芸の上達、縁結び、夫婦円満 |
| ゆかりの生き物 | 海鼠(なまこ)——口を裂いた話が『古事記』にある |
| おもな神社 | 佐瑠女神社・椿岸神社・戸隠神社 火之御子社・荒立神社 |
| 家族 | 記紀に親・配偶神の記載なし/子孫は猿女君(後の時代に猿田彦神の妻神とする伝えあり) |
| 登場する書物 | 『古事記』『日本書紀』『古語拾遺』 |
原文で読むひとこと
汝命に勝りて貴き神いますが故に、歓喜び咲ひ楽ぶ
あなたさまにもまさる貴い神がいらっしゃるので、喜び笑い、楽しんでいるのです。——岩屋の内から問いかけた天照大御神に、天宇受売命が返した答えです。
どんな神さま?
天宇受売命(あめのうずめのみこと)は、天照大御神が天の石屋戸にこもったとき、その前で神がかりして舞い、八百万の神をどっと笑わせた女神です。外のにぎわいをいぶかしんだ大御神が戸を開けたことで、闇に沈んだ世界に光が戻りました。『日本書紀』と『古語拾遺』では天鈿女命と書かれます。
活躍の場は岩戸の前だけではありません。邇邇芸命(ににぎのみこと)の天降りでは、お供の五伴緒(いつとものお)のひとりに選ばれ、天の八衢(やちまた)に立つ見知らぬ神に向かい合って、それが猿田毘古神(さるたびこのかみ)であることを明らかにしました。そしてその名を負い、宮廷の神事に仕えた猿女君(さるめのきみ)の祖となります。
名前の「うず」は、神事のときに頭に挿す枝葉や花のことで、ウズメはそれを挿した女性、つまり巫女を表すという説があります。『古語拾遺』は古い呼び名を「天乃於須女(あめのおすめ)」とし、気性が強く勇ましい神だったのでこの名がついたと説明しています。笑いで神々の心を動かす力と、恐ろしげな相手にもひるまない強さ。その両方がこの女神の持ち味です。
神話のなかのアメノウズメ
岩戸の前の神がかり
八百万の神が天の安の河原に集まり、鏡や玉をととのえて祭りの準備を進めるなか、天宇受売命は天の香山(あめのかぐやま)などの植物で身を飾りました。ひかげのかずらを襷(たすき)にかけ、まさきのかずらを髪飾りの鬘(かずら)にし、笹の葉を束ねて手に持ちます。武田祐吉は、これを「神がかりをするための用意」と注しています。
女神は岩屋の戸の前に槽(うけ)を伏せ、それを踏みとどろかせて神がかりし、衣がはだけるほど激しく舞いました。高天原がどよめくほど神々が笑うと、自分が隠れて世界は闇のはずなのに、なぜ皆が楽しんでいるのかと、天照大御神が内から問いかけます。天宇受売命は、あなたよりも貴い神がおいでになるので喜んでいるのだと答えました。伊勢神宮は、鏡に映った自分の姿を大御神が貴い神だと思った場面として、この神話を紹介しています。
天の八衢で、異形の神と向き合う
天孫の邇邇芸命が地上へ降るとき、天宇受売命は天児屋命・布刀玉命・伊斯許理度売命・玉祖命とともに、五伴緒として一行に加えられました。武田祐吉は、この顔ぶれの多くが天岩戸の神話にも登場することを挙げ、ふたつの神話が深く結びついているしるしだと注しています。岩戸の前で光を呼び戻した神々が、こんどは日の神の孫を地上へ送り出すのです。
その道の分かれ目で、天と地をともに照らす見知らぬ神が待っていました。だれを問いに行かせるか。天照大御神と高木神が名指ししたのが天宇受売命で、「汝は手弱女人なれども、い向ふ神と面勝つ神なり」とその理由を告げます。『日本書紀』の一書第一では、八十万の神が目を合わせることさえできなかった相手に、天鈿女命が衣の胸を開き、腰の帯を低く押し下げ、声をあげて笑いながら正面から立ち向かいます。『日本大百科全書』は、このしぐさを猿女君がつかさどった鎮魂祭と結びつけ、岩戸では衰えた日の神に生み出す力を与え、八衢では異界の邪悪なものを打ち破ろうとするものだと説明しています。
猿女君の名と、口を裂かれた海鼠
高千穂の峰に天孫が降り立つと、天宇受売命には新しい役目が与えられます。正体を明かした猿田毘古神を送り届けること、そしてその神の名を自分が受け継いで仕えることです。『古事記』は、その家の女性たちを猿女君と呼ぶのはこのためだと説明し、武田祐吉は、猿女君を朝廷で神事などに奉仕した人々と注しています。
猿田毘古神を送って戻った女神は、ひれの広い大きな魚もひれの狭い小さな魚もすべて集め、天つ神の御子に仕えるかと問いました。魚たちがみな仕えると答えるなか、海鼠(なまこ)だけが黙っています。天宇受売命は「この口や答へせぬ口」と言って、紐のついた小刀でその口を裂きました。『古事記』は、いまも海鼠の口が裂けているのはこのためで、代々、志摩の国から初物の海の幸が献上されるたびに猿女君に分け与えられるのだと結んでいます。
古事記と日本書紀のちがい
岩戸の前でどんな姿をしていたかは、伝える書物によって細かな食い違いがあります。『古事記』の天宇受売命は、ひかげのかずらの襷、まさきのかずらの鬘、笹の葉の手草で槽を踏み鳴らします。『日本書紀』本文(第七段)の天鈿女命は、茅(ちがや)を巻いた矛を手に、天の香山の真坂樹(まさかき)を鬘、ひかげのかずらを襷とし、火を焚き、槽を伏せて神がかりの言葉を発します。『古語拾遺』は鐸(さなき)をつけた矛を持たせ、手草に笹の葉と「おけ」という木の葉を加えています。
肌をあらわにする場面も、置かれる位置が違います。『古事記』では岩戸の前ですが、『日本書紀』本文と『古語拾遺』の岩戸の場面にはその描写がなく、どちらも猿田彦と向き合う場面のこととしています。ただし、天孫降臨で天鈿女命が登場するのは、『日本書紀』では第九段の一書第一だけで、本文には名前が出てきません。猿女君の呼び名についても、『古事記』は女性を猿女君と呼ぶ由来とし、一書第一と『古語拾遺』は、明らかにした神の名を氏の名とし、男女ともに君と呼ぶ由来としています。
第七段の一書第三には、天鈿女の舞そのものが出てきません。大御神の心を動かすのは天児屋命(あめのこやねのみこと)の祝詞の美しさで、天鈿女は別の役目を担います。高天原を追われた素戔嗚尊がもう一度天に上ってきたとき、その姿を見て日の神に知らせたのが天鈿女でした。
姿のひみつ
この絵は、天岩戸の前でかがり火に照らされ、木の槽を踏み鳴らして舞う天宇受売命を描いています。『古事記』は肌をあらわにした神がかりを語りますが、『日本書紀』本文と『古語拾遺』の岩戸の場面にその描写はないため、衣をきちんと身につけた祭りの舞姿にしました。記紀に出てくる衣や裳(も)、玉飾りは、古墳時代の埴輪に見える装いと重なります。京都の風俗博物館は両者を照らし合わせて古墳時代の衣装を復元しており、そのなかに天宇受売命の舞姿として装わせた「衣、裳の婦人」があります。装いはこれを手本にしました。
両肩からかけた、ひかげのかずらの襷
『古事記』は天の香山の「日影」を手次(たすき)にかけたと記し、武田祐吉はこれをヒカゲカズラと注しています。『日本書紀』本文と『古語拾遺』も「蘿(ひかげ)」を襷にしたと書いており、3つの書物の伝えがそろう数少ない装いです。山の木陰に這う緑のつるを、肩から胸へ斜めにかけました。
『古事記』上巻(天の岩戸)・武田祐吉注/『日本書紀』第七段 本文/『古語拾遺』
長く垂らした黒髪にのせた、まさきのかずらの鬘
鬘は、つる草や枝葉を輪にして頭にのせる飾りです。『古事記』は「天の真拆」、『古語拾遺』は「真辟葛」を鬘にしたとし、武田祐吉はマサキノカズラと注します。頭に挿す枝葉を「うず」と呼ぶ説にしたがえば、この髪飾りは女神の名にもつながる品です。髪は、風俗博物館の復元にならって結わずに垂らしています。
『古事記』上巻(天の岩戸)・武田祐吉注/『古語拾遺』/風俗博物館『日本服飾史』
片手に持つ、笹の葉を束ねた手草
手草(たぐさ)は舞うときに手に持つ草木の束で、『古事記』では天の香山の小竹葉(ささば)を結んだものです。岩戸が開いたあと神々が手を伸ばして歌い舞ったことばを、『古語拾遺』は「あはれ、あなおもしろ、あなたのし、あなさやけ、おけ」と伝え、「さやけ」は竹の葉の音、「おけ」は木の名でその葉を振る調子だと注しています。笹の葉ずれの音までが、祭りの歌になっていたのです。
『古事記』上巻(天の岩戸)/『古語拾遺』
もう一方の手に持つ、鐸(さなき)をつけた矛
『古語拾遺』は、天鈿女命が鐸をつけた矛を手にしたと記します。同じ準備の場面では、天目一箇神(あめのまひとつのかみ)に刀や斧とともに鉄の鐸を作らせ、古い言葉でこれを「さなき」と呼ぶと注しています。『日本書紀』本文では茅を巻いた矛です。矛の先に小さな鐸を下げ、舞の動きにつれて鳴る姿にしました。
『古語拾遺』/『日本書紀』第七段 本文
足もとの、中が空洞の木の槽
武田祐吉は槽を「中のうつろの箱のようなもの」と注し、『古語拾遺』はこれを「誓槽(うけふね)」と呼んで、誓いの意味があるとしています。のちの宮中の鎮魂祭では、御巫(みかんなぎ)が宇気槽(うけふね)の上に立ち、桙で槽を10回突く儀式が行われました。踏めば低く響く、中が空洞の木の器として描いています。
『古事記』上巻(天の岩戸)・武田祐吉注/『古語拾遺』/『改訂新版 世界大百科事典』「鎮魂祭」
岩屋の前で燃えるかがり火
『古事記』にかがり火は出てきませんが、『日本書紀』本文は火を焚いたと記し、『古語拾遺』も「庭燎を挙げ」と書いて、夜の祭りとして伝えています。日の神が隠れて昼と夜の区別もなくなった闇のなかで、炎に照らされて舞う姿にしました。
『日本書紀』第七段 本文/『古語拾遺』
ご利益と信仰
天宇受売命が芸能の祖神とされるのは、岩戸の前の舞が『日本書紀』と『古語拾遺』で「俳優(わざおぎ)」と書かれているからです。俳優とは、こっけいなしぐさや歌舞を演じて神を楽しませる者やその芸をいいます。伊勢の猿田彦神社は、境内の佐瑠女神社にまつる天宇受売命を「俳優・神楽・技芸・鎮魂の祖神」とし、芸能やスポーツにたずさわる人をはじめ、技芸の上達を願う人の参拝が絶えないと紹介しています。
宮中の鎮魂祭(ちんこんさい)も、この女神と深く結びついています。新嘗祭の前日に天皇の魂を体にしずめ、その力を強める祭りで、記録の初見は『日本書紀』天武天皇14年(685年)の条です。平安時代の宮中では、猿女を含む巫女たちがこの祭りに奉仕しました。斎部広成は『古語拾遺』のなかで、鎮魂の儀はすべて天鈿女命の残したわざであり、御巫はもとの氏から選ぶべきなのに、いまは他の氏から選ばれていると嘆いています。
縁結びの神としても慕われています。猿田彦神社は、天宇受売命が天つ神と国つ神の仲を取り持った神であることから、さまざまな良い縁を結ぶ神として信仰が篤いと伝えます。記紀は2柱の結婚を語りませんが、鈴鹿の椿大神社は天之鈿女命を猿田彦大神の妻神として別宮にまつり、高千穂の荒立神社は2柱が結ばれて暮らした地と伝えるなど、夫婦の縁を重ねる信仰も各地に根づいています。
舞の女神への信仰は、いまも神楽の舞台に生きています。宮崎県高千穂町で11月中旬から2月上旬にかけて奉納される「高千穂の夜神楽」の33番には「鈿女(うずめ)」の舞があり、天岩戸から大御神を誘い出す場面を舞います。長野県の戸隠神社に伝わる太々神楽も、天鈿女命をまつる火之御子社に仕えた社人が受け継いできたものです。
会いに行ける神社
佐瑠女神社(猿田彦神社 境内社)
三重県伊勢市宇治浦田
天孫降臨ののち、猿田彦大神とともに五十鈴川の川上の地へ来たことで、猿女君の称号を受けた女神をまつります。
椿岸神社(椿大神社 別宮)
三重県鈴鹿市山本町
芸道の祖神・鎮魂の神・夫婦円満の神として天之鈿女命を主神にまつる椿大神社の別宮。神前挙式も行われています。
戸隠神社 火之御子社
長野県長野市戸隠
承徳2年(1098年)ごろの創建と伝わる戸隠五社のひとつ。神仏習合の時代も神社として続き、境内に「夫婦の杉」が立ちます。
荒立神社
宮崎県西臼杵郡高千穂町
切り出したばかりの荒木で急いで宮居を造ったことから、荒立宮の名がついたと伝わる社。猿田彦命とともにまつられています。
よくある質問
- 天宇受売命の親や生まれは?
- 記紀は天宇受売命の親も、どのように生まれたかも記していません。わかっているのは、子孫が猿女君として宮廷の神事に仕えたことです。『世界大百科事典』の天鈿女命の項は、猿田彦を伊勢へ送り、志摩の海で魚たちに天孫への奉仕を誓わせた話などから、もとは伊勢に根ざした巫女の神で、猿田彦とは兄と妹として一族を治める間柄だったのではないかとみています。後の時代には、2柱を夫婦とする伝えも生まれました。
- おかめ(おたふく)は天宇受売命がモデル?
- おかめの面は天鈿女命に由来するともいわれます。ただ、記紀には天宇受売命の顔立ちを語る言葉はありません。丸顔で頬が高く愛嬌のあるおかめの面は、狂言面の乙御前(おとごぜ)などと同じ系統の、後の時代の芸能の面です。「おかめ」の名は江戸の里神楽で使われ、ひょっとこと対になる道化役として人気を集めました。いまは酉の市の熊手に飾られるなど、福を呼ぶ顔として親しまれています。
- 『古事記』を誦み習った稗田阿礼は、天宇受売命の子孫?
- 平安時代の『弘仁私記』の序に、稗田阿礼は天鈿女命の後裔だとする記述があり、武田祐吉も『古事記』序文の注で「アメノウズメの命の子孫」と記しています。阿礼は天武天皇の命で古い伝えを誦み習った人物で、男性とする説と女性とする説があります。女性の巫女とみる説では、神がかりする女神の子孫という伝えも、その根拠のひとつに挙げられています。
- 天宇受売命の舞は神楽のはじまり?
- そう考えられてきました。『古語拾遺』は、神武天皇の代の祭りで中臣・斎部の2氏が祭祀をつかさどり、猿女君の氏が神楽に仕えたと記しています。『世界大百科事典』も、植物を身につけた巫女が神がかりして生命力をよみがえらせる古代の儀礼が天鈿女命の俳優に表れており、それがのちに芸能となって神楽の基をつくったとしています。
出典・参考資料
- 『古事記』序・上巻(武田祐吉訓読)
- 『日本書紀』神代上(第七段)・神代下(第九段)
- 『古語拾遺』
- 國學院大學『古事記』神名データベース(天宇受売命)
- 『世界大百科事典』(天鈿女命・鎮魂祭・お亀・芸能・稗田阿礼)
- 『日本大百科全書』(天鈿女命・鎮魂祭)
- 『百科事典マイペディア』(お亀)
- 風俗博物館『日本服飾史』(衣、裳の婦人)
- 猿田彦神社 公式サイト(佐瑠女神社)
- 椿大神社 公式サイト(境内のご案内)
- 戸隠神社 公式サイト(戸隠神社の歴史)
- 高千穂町観光協会 公式サイト(荒立神社・高千穂の夜神楽)
- 伊勢神宮 公式サイト(神宮の神話)
神話の解釈やご利益には諸説があります。図鑑の書き方と絵の考え方はこの図鑑についてをご覧ください。